「動態裁断」のジャケット(中日新聞2017.3.22掲載)
動きやすさを縫製で
着させてもらった二つのジャケットは、肩幅、胸囲、袖幅などがすべて同サイズなのに、着心地が全く違う。アパレル製造のサンエース(岐阜市敷島町)が手掛ける「動態裁断」のジャケットは、腕を上げても脇の下がつられず、肩周りが自由に動かせるのに驚いた。
単なる”三次元”の立体縫製とは区別する意味で「4D」と呼んでいる。秘密は、生地を裁断する際に使う型紙(パターン)にある。普通のジャケットは腕を下げた状態を基本に作られるが、例えば、袖の外側は腕を曲げた形、内側は腕を伸ばした形にした生地を縫い合わせることで、より動きやすい機能的な服ができる。浅野勝三専務は「パソコンを使う仕事は腕を上げる動きが多いだけに、従来のスーツでは限界が来ていると思っていた」と、発想の原点を振り返る。
14の実用新案取得
同様の考え方で、自転車をこぎやすいズボン「サイクルパンツ」も開発した。自転車用のウエアの多くはポリウレタンのような伸縮素材で作られるが、劣化しやすいという短所がある。型紙を工夫することで、伸びない生地で作ることが可能になった。
これらのアイデアで同社が取得した「実用新案」は、十四にのぼる。
ただ、異なる曲線を描くパーツを縫い合わせるには、高度な技術がいる。かつては外注していたが、
技術力を確保するため、2012年に縫製を担う関連会社「サンワーク」を設立した。
「うまさ」の追求
縫製には安い・速い・うまいの三要素があるが、安さと速さでは海外製と勝負できない。国内生産ならではの「うまさ」を追求し、動きやすさを打ち出すことにした。
中国人の技能実習生も雇用するが、制度上三年で入れ替わってしまうため、近年は日本人の若手の採用を増やしている。名古屋の専門学校を卒業し、一昨年に入社した宝田奈緒さんは「変わったデザインの服を縫うのは大変だけど、やりがいがある」と話す。
人件費が安い海外との価格競争で、疲弊する業界を見てきた浅野さんは言う。「岐阜アパレルには昔から、『安く作ればもっと売れるだろう』という発想があったが、変えなければいけない。もう一度、作る側の思い入れや感動を伝えていきたい」